2019年9月29日(日)から11月24日(日)までの期間、練馬区立美術館で開催中の『エドワード・ゴーリーの優雅な秘密展』に行ってきました。
ゴーリー展がはじまり、一週間が経ちました。初日から多くのお客様にご高覧頂いていますが、アンケートを見るとやはり一番人気は『うろんな客』のようです。この「うろん(胡乱)」とは聞き慣れない言葉ですが、辞書をひくと「確かでなく、怪しいこと。うさんくさいこと。」とあります。…つづく pic.twitter.com/7H84OjoYEF
— 練馬区立美術館 (@nerima_museum) October 10, 2019
SNSで開催を知り、私が「うわっめっちゃ行きたい!!!(というか、絶対行く)」となった理由は、ゴーリーが『不安な箱』(The Fantod Pack)の作者だと記憶していたから。
『不安な箱』は20枚のカードがセットになったタロットみたいなものなのですが、どのカードを引いても不安をあおるようなことしか書かれていないという不穏なアイテム。書店でタロット展があると大抵並んでいて、その独特な世界観に惹かれていたのです。
「人を不安にさせるのが自分の使命」というエドワード・ゴーリーとは

エドワード・ゴーリー(Edward Gorey/1925-2000)は、繊細なモノクロームのペン画で、独特で不気味な世界観を描くアメリカの絵本作家。
展示会をみるまでは「不気味な絵を描く人」くらいの知識しかなかったのですが、実際に展示されている350点もの原画や資料、書籍に触れてみると、心がざわざわしてくるくらい1枚1枚の影響力がすごいというか。
館内にあった解説文によると、かつてエドワード・ゴーリーはインタビューで「人を不安にさせるのが自分の使命だと思っている。世の中は不安なものだから」といった発言をしたのだそうです。
絵をみるだけ人を不安にさせる。そんなインフルエンスな作品を出し続けるってすごいの一言に尽きますよね…。(語彙力)
ちなみにゴーリーの作品では老若男女が分け隔てなく酷い目に遭うのですが、唯一、猫だけは不幸な目に遭わない存在だったそう。ゴーリーは6匹の猫と暮らしおり、彼らをひどい目に合わせることはできなかったのかも。
実在の殺人事件モチーフや狂気のストーカーetc.私的に心に刺さったゴーリー作品5選

さっそく平日に時間をつくり、開館とほぼ同時に観覧スタート。
やはり…というべきか、何もない平日午前中でもそこそこ来場者がいて、順路にそって絵をみようとすると、たまに前の人と距離が詰まってしまい空いてるところから…という流れで観ていきました。
#エドワード・ゴーリー展 混雑状況
週末は特に多くのお客様にご来場いただいている為、混雑が生じます。週末のご来館は午前中がオススメです。
明日26日(土)は本展関連講演会開催のため、夕方は特に混雑が予想されます。予めご了承ください。(講演会は事前申込制。当日参加はできません。) pic.twitter.com/YhFCrTTbw9— 練馬区立美術館 (@nerima_museum) October 25, 2019

ちなみに撮影はロビーにあるフォトOKのパネルのみ。展示物の撮影はできません。
『ギャシュリークラムのちびっ子たち』(The Gashlycrumb Tinies or, After the Outing)
この作品はゴーリーの代表的のひとつ。アルファベットの頭文字をもつ26人の子どもたちが「Aはエイミー階段落ちた」「Bはベイジル熊にやられた」というように、ひとりずつ順番に死んでいく、という不穏な絵本。
何が怖いって、淡々と子どもが死んでいくだけの話ということ。子どもたちが悪さをしたからとか、大人の不注意からとか、死んでしまう理由は何も語られていません。
時々、息を呑むくらいショッキングな死に方もあって、世の中の不条理さを凝縮したような1冊です。
青いアイスピック(The Blue Aspic)
これは日本では未発売の1冊。貧しい主人公が憧れのプリマに焦がれるあまり、最後には殺してしまうという絵本。(もしかしたら殺そうとしたけど、自分が死んでしまう内容だったかも…)
貧しい主人公は憧れのプリマ(バレリーナ)に近づきたくて、舞台に侵入して精神病院行きに。しかしレコードすらない病院での生活は苦痛でしかなく、逃げ出してプリマの元へ向かうがーー。
解説文にあったのですが、これは現代でいうアイドルの追っかけがヒートアップしてストーカー化してしまう話そのまんま。純粋な気持ちが狂気に変わってしまう様子が切り取られた作品で、1968年出版の絵本ながら、現代の闇を感じずにはいられない内容でした。
『錯乱のいとこたち、あるいはなんでもいい』(The Deranged Cousins or, Whatever)
この作品も日本版未発売。
女ふたり、男ひとりの従兄弟同士が、島で仲良く暮らしていたのですが、ケンカをしてひとりを殺してしまい、残ったふたりも次第に精神を病んで死んでいく物語です。
起こったことが淡々と描かれるだけで、彼らの感情は一切わかりません。女同士がケンカをして殺人に発展、残った女は男に手伝わせてその遺体を埋めるのですが、たとえ衝動的であったとしても殺してしまった理由は一切不明です。
これにはどうしても“女ふたり、男ひとり”という関係性を勘ぐってしまわずにはいられません。お伽話のように従兄弟3人、いつまでも仲良く暮らしました、とはならないのが残酷でした。
『おぞましい2人』(The Loathsome Couple)
この作品は日本語版あり。展示会では実際に絵本を手に取って読むことができました。
子どもを誘拐しては殺すという実在した殺人カップルをモチーフにしており、発売当初はかなりバッシングを受けた作品だそう。
忌まわしいカップルの生い立ちから死ぬまでが淡々と描かれており、実際に子どもを誘拐するシーンは後半のほう。カップルが悲惨な幼少期を過ごしていた、という部分からはじまるので、どこか同情を禁じ得ない内容です。
しかし罪は罪。カップルがそれぞれ独房でひとりきり、命が尽きるシーンで絵本は終わります。絵本を閉じてからも、鉛を飲んだような重さが胸に残る作品でした。
『音叉』(The Tuning Fork)
日本語版未発売。
家族から嫌われいる少女が世の中に絶望して海に身投げ。しかし海の底で不思議な生物と出会い、友だちになる。それから家族が次々と溺死していく、という物語。
これは1枚の原画(少女と不思議な生物が出会うシーン?)が展示されていたのみで、詳しい内容ははっきりと分かりません。
傷ついた少女が不思議な生物と心温まる交流をするだけじゃないのが、さすがゴーリー作品。少女を愛さなかった(今でいうネグレクト?)家族が次々と溺死してしまうという内容が深く印象に残りました。
おそらく家族の死と不思議な生物はつながっていると思うのですが、それが少女を想う歪んだ愛情なのか、悪魔との契約的なものなのか。どちらにしろ少女の行く末が気になります…。
ゴーリーの世界観をたっぷりと堪能できる展示会

たっぷり、じっくりと展示物を観てまわり、あっという間に1時間オーバー。3室をまたいた350点もの展示品は、かなりの見応えがありました。
不穏なゴーリーの世界観にどっぷり浸り、堪能できる展示会。ぜひ期間内に足を運んでみてはいかがでしようか。
【展示会情報】
『エドワード・ゴーリーの優雅な秘密』
場所:練馬区立美術館
休館日:月曜日
開館時間:10:00~18:00
観覧料:一般1,000円
詳しくは公式サイトを確認してください(こちら)
↓ブログを書くにあたり参考にした書籍